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~池上彰の大岡山通信 若者たちへ~挑戦が日本のチャンスに
「共通だが差異のある責任」とは COP21(上)  ~池上彰の大岡山通信 若者たちへ~
 昨年末のフランスで、過激派組織「イスラム国」(IS)による衝撃的なテロ事件が報じられるなか、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)による「パリ協定」が採択されました。厳戒態勢下の現地を取材し、講義などでも取り上げましたので、2回に分けて、その意義と日本の新たな可能性について考えます。
■地球上で温暖化による問題が表面化
 COPはConference of the Partiesの略です。COP21とは、国連気候変動枠組み条約に加盟している国々や地域による21回目の会議を意味しています。196カ国・地域が参加しました。2020年以降の温暖化防止の枠組みとなる「パリ協定」は、1997年に採択された「京都議定書」に続く新しいルールとなります。
 「気候変動」とは人為的な原因が理由で気候に影響を与えていること。一方、自然現象の変化によるものを「気候変化」といいます。人間の生活や産業活動によって生じる二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスは、地球温暖化の原因になると考えられています。
 科学的な因果関係の究明には時間がかかるかもしれませんが、地球上では、明らかに温暖化が原因とみられる問題が表面化しています。たとえば、海面上昇や巨大なハリケーンの発生に伴う自然災害。農作物の作付け地域の変化による食糧生産の問題。干ばつの激化などです。
 「パリ協定」の主な骨子は、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える。今世紀後半には温暖化ガスの排出量と吸収量を均衡させる。各国の削減目標を5年ごとに見直す機会を設ける。先進国は途上国の支援のために拠出を義務化することなのです。
 科学者の研究によれば、産業革命前から地球の平均気温は1度上昇しているそうです。パリ協定では、気温上昇が1.5度未満になるよう努力することにも言及していますが、残された余地は1度未満しかないのです。
 「パリ協定」は今後、16年度以降、世界の温暖化ガス排出量の55%を占める55カ国以上の国々が署名・批准した後、30日後に発効します。残された時間はわずかと言ってよいでしょう。
 たとえば主要国が25~30年に向けて掲げた削減目標を見ると、日本は13年に比べ26%削減、アメリカは05年に比べて26~28%削減、欧州連合(EU)は90年比で少なくとも40%削減という明確な数値を掲げています。これに対し、中国は国内総生産(GDP)当たりの排出量(二酸化炭素)を05年に比べ60~65%削減、インドもGDP当たりの排出量を05年比で33~35%削減を目指します。
 こうした各国の削減目標には課題も指摘されています。各国の基準年がバラバラで、比較できないのです。また、途上国のように経済成長が見込まれる国々の場合、GDPの大きさを基準に温暖化ガスを削減したとしても、排出量が絶対量では増えてしまう可能性があるのです。しかも、加盟国すべての目標が達成されても、気温は2度以上上がってしまうという試算もあるようです。
 
■先進国、新興国、途上国が同じ目標に取り組む
 それでも、先進国だけに温暖化ガスの削減義務を課していた「京都議定書」に比べ、先進国、新興国、途上国が同じ目標のために一緒に取り組むという意義は大きいでしょう。途上国にしてみれば、温暖化ガスを出し続けてきた経済大国と同じ責任を負わされるのは納得がいかないという思いが強かったからです。
 これを「共通だが差異のある責任」といいます。各国はその経済規模に合わせて、責任を分担することになったのです。「パリ協定」が、21世紀の地球温暖化対策を巡る歴史的なルールと意義づけられるゆえんです。
 つまり、協定の採択までに紆余曲折(うよきょくせつ)はありましたが、先進国も、途上国も、それぞれ経済の発展段階に合わせて、実現可能な目標に向かって取り組むことになったわけです。
 私も、97年に京都議定書を取材していた記者の一人として、感慨深い気持ちになりました。次週は、不可能への挑戦が日本のチャンスを生む可能性があることを現代史とともに振り返ります。
挑戦が日本のチャンスに COP21(下)  ~池上彰の大岡山通信 若者たちへ~
 昨年末、21世紀の地球温暖化対策を巡る歴史的なルールがまとまりました。196カ国・地域が参加した第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)による「パリ協定」です。前回、その数値目標の意義について解説しました。今回は続編として、日本の新たな可能性について考えます。
 
■経済活動の落ち込みで削減目標達成
 「パリ協定」の前のルールとして1997年に採択された「京都議定書」は、大きな課題を残していました。それは経済成長と、温暖化ガスの削減という環境対策のどちらを優先するのかといった問題です。
 例えば、日本は90年比で2008年から12年までの5年間で6%削減という目標を掲げました。ちなみにアメリカが7%、欧州連合(EU)が8%という削減目標でした。
 日本には高い目標で無理ではないかといわれましたが、実現してしまいました。それは、08年にリーマン・ショックが起きて経済活動が落ち込み、結果的に温暖化ガスを劇的に減らしたためです。実に皮肉な結果です。 目標実現へ結束することの難しさにも直面していました。京都議定書が採択されても、アメリカは脱退してしまいました。政権が共和党のブッシュ政権に代わり、温暖化対策に熱心でなくなったからです。日本も12年までは参加していましたが、その後は、脱退してしまいました。途上国の削減義務化が進まないことに抗議するものでした。
 いま、安倍晋三政権は、日本経済の国内総生産(GDP)を600兆円に拡大する目標を掲げています。経済成長につながる新たな産業を育てる一方で、経済成長にはマイナス要素になりかねない「パリ協定」の実現という国際的な約束を実現しなくてはならないのです。
 そこで日本の可能性を考えてみましょう。太陽光発電などの再生可能エネルギーの技術に関して、特許を持つ世界企業の上位には多くの日本企業が入っています。国内だけでなく、海外の温暖化ガスの排出削減につながるビジネスチャンスの芽をつくれるかもしれません。
 
■研究開発進め自動車の排ガス削減
 また、私も昨年末、ブラジルのアマゾン流域を取材し、地球環境問題に貢献する日本の技術の存在を知りました。アマゾン流域には、「地球の肺」ともたとえられる広大な熱帯雨林が広がっているのはご存じだと思います。樹木は成長期には二酸化炭素(CO2)を吸収し、光合成をして成長します。そのCO2は樹木の中に閉じ込められていますが、森林を伐採して燃やしてしまうと、CO2が再び空気中に排出されてしまうのです。
 そこで、日本の陸域観測技術衛星「だいち2号」を使い、地上の取締官に監視情報を送り、熱帯雨林の違法伐採を抑え込もうとしているのです。だいち2号には最新のレーダーが搭載され、雲が広がっているような気象条件でも地表の情報を把握することができるのです。今年6月から運用が開始されるシステムなのだそうです。
 日本の最先端技術が様々な分野で活用され、新たなビジネスチャンスをつくりだす可能性を感じました。こんなときに思い起こすのが、石油ショックを乗り切った日本の自動車産業の技術力です。
 70年代初め、米国では環境保護を狙いに自動車メーカーに厳しい技術導入を課して、排出ガスを大幅に減らそうという新しい法案が議論されました。提案した議員の名にちなんだいわゆる「マスキー法」です。これをクリアできなければ、米国だけでなく日本など海外のメーカーも、自動車を売ることができなくなるというものでした。
 米国の自動車業界は政治工作に走って法案を骨抜きにしようとしたのに対し、日本の業界は地道に研究開発を進め、不可能とまでいわれた技術を実用化しました。有名なものがホンダの「CVCCエンジン」です。トヨタ自動車や日産自動車も新技術を開発しました。有害な排出ガスを減らすためにガソリンの燃焼効率を高めるエンジン技術は、燃費の高い性能の実現にもつながったのです。
 その後、偶然にも中東戦争による石油ショックが世界を襲いました。米国の消費者は、大型の米国車から、燃費の良い小型の日本車に乗り換えました。その結果、日本の自動車メーカーが世界最大の自動車市場でシェアを拡大したという経緯があるのです。
 メーカーにとっては、不可能と思われた排出ガス基準をクリアするエンジン開発への挑戦が、大きなビジネスチャンスを生んだのです。ここに日本の企業や研究者らの技術力に対する真摯な姿勢をみることができるでしょう。
 COP21が採択した「パリ協定」実現への試みは、人類が直面する危機を乗り越える一歩であると同時に、日本にとって大きなチャンスの芽でもあるともいえるのです。
 産業構造は時代とともに変わります。日本は2度の石油ショックを乗り越え、筋肉質の強い経済を築きました。日本の新たな可能性に挑み、その底力を鍛えるのは若い君たちなのです。
 
2016.2.1 日本経済新聞掲載
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