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商売上の倫理を疑われる、架台の仕様問題

商売上の倫理を疑われる、架台の仕様問題

産総研 加藤和彦氏、吉富電気 吉富政宣氏の対談 

吉富電気 吉富政宣氏
(撮影:森田 直希)

吉富 特に、出力50kW未満の小規模な事業用の発電所の事故が目立っている。例えば、風圧力に耐えきれずに、架台ごとひっくり返ってしまったり、架台の裏側から吹き付けてきた風によって、太陽電池モジュールが架台から引きはがされてしまうといった事故である。

 ここでポイントなるのは、架台への外力、特に風圧力である。システム計画の段階で重要なチェック事項に、設置する地域の基準風速や、地表面の粗さを指す地表面粗度などがある。このうち基準風速は良く知られているので、地表面粗度について紹介する。

 地表面粗度は、4段階で区分されている。海岸沿いなど、平坦で障害物が少ない地域が「I」で、その数値が大きいほど、地表面が粗い地域となる。田畑や住宅が散在しているような地域が「II」、市街地が「III」、大都市が「IV」といった具合である。

 地上5mの高さのメガソーラーを例にとると、地表面粗度が「I」の地域では、「III」の地域に比べて、2.77倍も風圧力が大きくなる。これは、東京郊外と沖縄の間の基準風速の影響によるものと同等である。

 例えば、メガソーラーならば、一般的に平坦な土地に建設される。このため、本来ならば、架台の耐力は、地表面粗度「I」や「II」を前提に検討すべきである()。

 ところが、メガソーラー用として販売されている架台の多くは、地表面粗度が「III」の設定でカタログ表示されている。日本法では、「IV」に定められた地域はないため、事実上、「III」は地表が「最も粗く」、「風圧力が小さい」とされる。しかし、そのような高地価の地域にメガソーラーが建設されるケースは限られている。

メガソーラーで前提とすべき地表面粗度

——「I」や「II」を想定すべきだと。

吉富 メガソーラーのように、周囲が開けた場所に設置されるシステムではそうなる。資材供給事業者は本来、地表面粗度「I」や「II」を前提に設計し、採用を検討している発電事業者やEPC(設計・調達・建設)サービス事業者に、構造計算例を渡して判断してもらうのが筋だと思う。

 そこまでしないにしても、「III」というのは、東京や名古屋、大阪といった大都市の郊外のように、住宅が多数あるような場所である。そんな地域にメガソーラーを建設する事業者など、まずいないのに、架台製造者は何故そのような架台の仕様を謳うのか。商売上の倫理を疑われる問題だと感じている。

産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター システムチームの加藤和彦氏
(撮影:森田 直希)

 太陽光発電システムの構造を判定するクライテリア(基準)には、建築基準法とJIS(日本工業規格) C8955という二つの体系がある。両者ともに、地表面粗度の判定を含んでおり、その判定を怠っていれば違法となる。しかし、地表面粗度の判定に基づいた判断ができる発電事業者などは、現時点では少ない。

加藤 建築基準法と、基準が少し緩いJIS C8955のどちらを適用するのかは、設計者の判断になるのか?

吉富 法律が複雑で、予備調査と事前計算をせずに、手がけようとしている太陽光発電システムの対象となる法律の種類を見極めるのは不可能である。

通行中の自動車に架台ごと落ちた例

加藤 メガソーラーではなく、住宅用では最近、架台ごと屋根から外れてひっくり返り、道路上に落下した事故の原因を探る機会があった。こうした事故は、残念ながら珍しくない。

 設置後、わずか半年間で起きたもので、こうした事故が起きることは、以前から危惧していた。今回、特に衝撃を受けたのは、通行中の自動車の上に落ちたということだった。

 たまたま、ボンネットの上に落ちた後、フロントガラスとは逆側の道路にバウンドしたために、幸いにも負傷者が出ずに済んだという。ただし、電柱は折れたという。

吉富 これまで、停止中の自動車に太陽電池モジュールや架台が突き刺さった例は、何件か聞いている。しかし、通行中の自動車に落下したという例は、さすがに初めて聞いた。このような状況を放置しておけば、いずれ死傷者が生じてしまうような事故が起きてしまいかねない。

 この太陽光発電システムの事故の原因を探る機会を得て、まず、架台の構造計算の間違いを疑い、調べることにした。架台設計の妥当性を調査するには、設置場所の周辺環境に関して、多くの情報を集める必要がある。地域、建物の横幅や高さ、奥行き、太陽電池モジュールの設置角度、屋根面からの高さなどである。少なくとも、自治体に問い合わせるなどして、その地域の地表面粗度を把握する必要がある。

 さらに、屋根のうち、太陽電池モジュールが設置された範囲や全体の面積に対する比率によって、対象となる太陽光発電システムに適用される法律を見極める。

 本件では、ここまで調べるのに、14時間を要した。施工業者にとって、それだけの時間が与えられれば、住宅用太陽光発電システムの設置工事を1件、終えることができる。だから、施工業者が、その調査を疎かにする心情は理解できないこともない。

 ここから得られる教訓は、事前調査を疎かにする背景があるということである。適用される法律を見極めるだけで、多くの時間と労力が必要になるからである。

 この計算の最終的な目的は、施工業者が設置した架台の強度が、法定値に対して、何%満たしていたのかを知ることだった。実際には、法が求める最低基準に対して、3~9%しか耐力がなかった。

設計に本来、必要なコストを認識せよ

加藤 こうした覚悟が問われる設備を、20年間使うということに対する意識を、社会がどこまで認識しているのだろうか。コストの議論ばかりに、注目が集まりすぎている。

吉富 わたしは、システムの材料費や施工費にしか目が向いていない傾向に注目している。本当に注目されるべきなのは、設計費、中でも構造設計の経費なのだと思う。

 例えば、いま紹介した、架台ごと屋根から外れて落下した事故が起きた住宅用の太陽光発電システムの施工費は、おそらく20万円くらい、太陽電池モジュールなど主な資材の調達価格は、おそらく100万円程度だろう。

 しかし、本来、設計時に、実際にかかる風圧力のデータを得るためには、風洞実験をして風力係数を求める必要がある。今回紹介した事故現場に適当な風洞実験のデータについては、ある建築学会員が数千万円を投じて実施して得たデータを公開してくれているために、例えば、わたしがこうした事故の原因を探る際に活用できている。

 このデータが公開されていなければ、自分たちで風洞実験をしなければならない。この場合には当然、設計費の一部として、その数千万円を加えた額が、太陽光発電システムのコストとなる。現在の太陽光発電システムは、太陽電池モジュール価格の低下のおかげで材料の手配には懐が痛まなくなった。しかし、設計コストは全く低下してはいないし、設計に必要な労力がこれから減ることはない。このことは、市場からは十分に認識されていない。

 


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